(小説)黒縁師匠隋聞記 第7話 屈折率

(小説)黒縁師匠隋聞記 第7話 屈折率

綾子が黒縁塾に来始めてから1週間ほど経った土曜日、この日は綾子だけが塾へ来て、颯一郎の姿はない。

颯一郎は、3年生として、最後の試合に臨んでいるため、塾は休んでいるのだ。

「ししょぉ~。分かりません」

平均の応用問題を手に、綾子が黒縁の前にやってきた。

「どうぞ、座ってください。説明します」

黒縁が、赤と青のサインペンをペン立てから取り出して説明の準備を始めながら言う。

「綾子ちゃん。『師匠』じゃなくて、『先生』でいいんやで」

「ええ? やだ~。だってズルいもん」

黒縁の前に座った綾子が、小柄な体を揺らす。

「いや・・・・・・何もズルくないでしょう」

「綾子も『ししょお』がいい」

「いや、無理せず、ふつうに『せんせい』でいいです」

「なんで、ししょーは、颯兄ぃばっかり、ひいきするの?」

なるほど、「ひいきしている」ように見えるか。

さて、どう切り返したものか思案のしどころである。

「だって、『ししょー』って言ってるの。颯兄ぃだけだよ? 他の子はみんな『せんせー』って言ってる。綾子も『ししょー』がいい」

この女子とは、夏休みの1ヶ月だけの付き合いだ。

ならば、深く引きずり込むのはよくない。

あっさりとした付き合いで済ませて、夏休みが終わったら、ちゃんと自分の居場所に戻るのが健全だと思う。

「分かった。綾子ちゃんが呼びたいように呼んでくれていいよ。ただし、夏休みが終わったら、この教室のことは忘れること。いいね」

「えええええ? やだ」

久しぶりの難敵だなと思いながら、黒縁は言葉を探す。

「ううん、でもさ、綾子ちゃんは普段はどこに住んでいるの?」

「東京だよ」

「そうか、東京に友達とか、大切な仲間とか、いない?」

「いるわけないじゃん!」

この子は、細身の小柄な体に似合わず、まるで大砲で鉄球をぶちかますような言葉を発するときがある。

それだけ本音が言えるということは、親からの抑圧はそれほど強くなさそうだが……。

「よし分かった、綾子どの。わしを『師匠』と呼ぶがよい」

「やった、やった。これで綾子も颯兄ぃと一緒」

「ところで、お父さんとお母さんは、どんなお仕事してるの?」

「パパとママは美容師だよ。でも熊本のおばあちゃんが病気で、ママが介護しなきゃいけなくておばあちゃんのところに行ってるから、パパはお仕事で家にいないんだ。だから、颯兄ぃのところに来たの」

「へぇ、そりゃ大変だ」

「でもね。綾子は家にいてもつまんないから、こっちの方が楽しい」

「そうなの?」

「だって……綾子は勉強すごくできるのに、パパとママはちっともほめてくれないんだもん」

綾子は口をとがらせるのを見て、黒縁はどういうタイプの親なのだろうと疑問が湧いてくる。

黒縁の頭にはいくつかのパターンが頭に浮かびはするものの、もう少し綾子の親の話を聞いてみたくなった。

「勉強しろ、とかよく言われるの?」

「ううん、ぜんっぜん!言われたことない。綾子は勉強がんばりたいのに、『将来は店を継げばいいから』なんて言われるんだよ。美容師になるんだから、勉強なんて、できなくても困らないんだって」

なるほど、これはこれでややこしそうな話だなと黒縁は思った。

黒縁の力で、どうこうしてあげられることはないとも同時に思う。

いつもの癖で踏み込んでしまったが、これ以上の詮索は野暮だ。

「そっか、でも今はとりあえず算数にもどろうか」

まだ話し足りない感じの綾子だったが、黒縁は算数の解説を始めた。

 

中学最後の大会。颯一郎は陽彦とダブルスを組んで出場していた。目標は優勝&県大会出場だった。

決勝の相手は、強かった。颯一郎と陽彦はよく戦ったが、敗退した。

表彰式の後、体育館の壁を背に、二人は並んで座っていた。

「あああ・・・・・・終わった・・・・・・」

陽彦は、頭にタオルをかけていたので、どんな顔をしているかは颯一郎には、分からない。

「ごめんな、おれがもっと拾ってれ・・・・・・」

颯一郎が言い終える前に、陽彦が返す。

「謝るんじゃねえよ・・・・・・」

卓球部に入ってから、ずっとこの2人でダブルスを組んできた。

試合に負けると必ず颯一郎は「ごめんな」と言う。

そして陽彦が「謝るんじゃねえ」と返すのだが、ここまで来ると、まるで儀式のようだ。

「もう、このやり取りを陽彦とすることもないのか……」と颯一郎は思っていた。

陽彦の頭にも似たようなことが浮かんでいるのかもしれない。

「で、勉強の方はどうなん?」

陽彦が心配そうに聞いてくるので、颯一郎は(親かよ・・・・・・)と思う。

しかし、颯一郎はそんな陽彦をうっとうしいと思ったことはなかった。

「ああ~、まあまあ、かな。英語と歴史を今度のテストで上げる予定」

「へええ、『ブッチ塾』って意外と勉強させてくれるんだな。おれなんか、夏期講習テキストをめっちゃ渡されて、過去問コピーもこんなだぜ。さすがに大変だわ」

頭にかけたタオルを首にかけ直し、陽彦は右手の親指と人差し指で、プリントの厚みを作る。

「おぉぉ。それは、ムリだ。やっぱりビシバシ塾は、ムリだ」

颯一郎は、そんなにたくさんのプリントをする自信はないし、正直やりたくないと思う。

「え、じゃあ、何やってるの?」

陽彦は、問題集やプリントを使わずに、何をどうやって勉強しているのか想像がつかないらしい。

陽彦は、小学校低学年の頃から塾に通い、ずっとそうやって勉強してきたのだから無理もない。

「え、ふつうに教科書読んでるけど・・・・・・」

「問題集は?」

「ないよ。『学校からもらうもので、充分』って先生はずっと言ってるし」

「えええ? まじで? そんなんで成績上がるわけないじゃん?」

体育館に、陽彦の驚いた声がこだまする。

「ああ、でも、前より分かるようになってきたかなあ」

のん気に答える颯一郎の様子に業を煮やしたのか。

陽彦は、颯一郎の肩をつかんで、

「お前、まじで『ビシバシ』来いよ。おれが一緒だし。問題集も過去問もいっぱいくれるから、絶対成績上がるって。分かんなかったら、おれが教えてやるし。そんな・・・・・・夏休みに問題集も渡さない塾なんて……」

すごく心配そうに言った。

颯一郎は、ちょっとまずい雰囲気になってしまったと思って、うまく切り抜けられないか、どうしようか、陽彦に肩をゆさゆささせられるし、目が回りそうだ。

せっかく陽彦がここまで心配して言ってくれてるのに、すぐに断るのも申し訳ない感じがする。

どうしようか、言いあぐねていると、

「おおい、そこの君たち! 大会は終わったぞ、早く帰りなさい!」

と、たぶん他の中学校の引率の先生が、体育館の奥から2人に声をかけてきた。

「やべ」

「行こう」

颯一郎と陽彦は、荷物をまとめて体育館の外に出た。

自転車置き場から出ると、陽彦は先に自転車を走らせながら、颯一郎の方を振り返る。

「さっきの話。まじ考えといてよ」

颯一郎は、手を振って応えた。が、颯一郎は塾を変えるつもりは一切なかった。

それから2週間ほど経った。

カレンダーはあっという間に7月を走り抜け、8月に突入、今日はお盆休み直前の授業となった。

ここ数日、37度前後の晴れの日が続き、とにかく毎日暑い。

黒縁は、颯一郎がなぞり書きをした、「歴史の紙」を持ってこさせ、机の上に置く。

颯一郎の手元には、歴史の教科書があった。

「ええか、颯一郎。今からわしが指さした言葉を、その教科書の中から見つけて、わしに見せろ」

「え、見つけて見せるだけでいいんですか?」

「そうや。ただし、制限時間10秒や」

「へ? 10秒? もしできなかったら……」

その質問には答えずに、黒縁は

「ほな、いくで」

と言って、歴史用語がぎっしりと書かれた紙の上を指差すと、それを見た颯一郎は、あわてて歴史教科書をパラパラとめくり始める。

「ごっ……御成敗式目・・・・・・えと、えっと、江戸時代だから……」

「・・・・・・5、4、3、2、1。はい、時間切れ。おい颯一郎、御成敗式目は鎌倉時代や。武家諸法度と混ざってないか?」

「え、鎌倉時代? あああ、まじか」

「おい颯一郎。ここにある言葉、全部10秒以内に出せるようにしとけ。それが夏休みの宿題や」

「え?全部ですか?」

「わからんときは、教科書の索引を見たらええ」

「さくいん?」

何のことを言っているのか分からないと言った反応に、黒縁は苛立たしそうに答えた。

「索引や、タコ助。うしろの方にあるやろ」

颯一郎が教科書の後ろの方をめくってみると、たしかに、索引がある。

「あ、ほんとだ」と間抜けな声を上げながら、颯一郎が歴史教科書の索引を見るうちに、あることに気づく。

「というか、師匠。この紙にある言葉って、ほとんどここから写してないですか?」

「その通りやが」

「なんか・・・・・・ずるい」

「気付かへんお前がアホやねん」

「ひどい! アホって師匠、言い過ぎですよぉ」

「言われて傷つくってことは、ほんまにアホなんやな。自分はアホじゃないと思ってるやつは、『アホ』って言われてもいちいち反応せんものや」

にやにや笑う黒縁を見て、

「ぐ、おれ、アホじゃないし! 傷ついてないし!」

と颯一郎が言い返す。

「アホじゃないんやったら、わしが言うた宿題。ちゃちゃっとやってこい。今日はここまでや。ああ、もう・・・・・・今日は帰って餃子焼かなあかんねん。はよ帰らんとあかん」

「師匠。餃子焼くんですか?」

「そうや、餃子でもお好み焼きでも『焼き』はだいたいわしが担当やねん。嫁が仕込んで、わしが焼く。我が家はそれでうまいことなってるねん。お前の家はどやねん。親父さんが料理人なんやろ?」

颯一郎も黒縁も、帰る直前の雑談モードに入っている。

「ああ、うちは、お父さんがいるときは、全部お父さんが料理しますよ。お好み焼きはめちゃくちゃうまいです」

「おお、お好み焼きかあ、ええのう……」

言いながら黒縁が帰り支度をしようとしているのを、颯一郎が察知してさらに話題を探そうとしていた。

明日からこの塾は1週間のお盆休みだ。

今日をのがしたら、何かいけないような気がする。

「あの、師匠。こないだのあれですけど」

「は? あれってなんやねん?」

「ええと、ほら。そう、『春と修羅』のとき・・・・・・」

颯一郎は、考えながら言葉をつなぐ

「『本当の勉強』って、言ってたじゃないですか。じゃあ、今おれがやっている勉強も『本当の勉強』に入りますか?」

「ふむ……」

クリティカルヒットだったようだ。

黒縁がメガネをクイクイッとしながら少し考え込む。

「うむ、そうだな。あのな。光のスペクトルって分かるか? ああ、そうやな。光をプリズムに通すとほら、虹みたいになるやつや」

「はい、見たことあります」

「勉強って、あんな感じやねん・・・・・・」

「・・・・・・?」

颯一郎が、まったくピンと来ないような表情をするので、黒縁は「ああ……」と言いながら言葉を探す。

「そうやなあ。『自分がやりたい勉強』がこっちにあって……」

黒縁がまず右手をグーにして持ち上げる。

「本当はしたくないけど『せなあかん勉強』がこっちにあるとする」

次に左手をグーにして持ち上げた。

「この世の中で生きている限り、『自分がやりたい勉強』だけやってたらそれでええのかと言われたらそうでもなくて、やっぱり、したくないけど『せなあかん勉強』に取り組まないといけないときもある。たとえば、そう、なんか資格を取ろうと思った時、『こんなんほんまに役に立つんかいな』と思うような勉強でも、その資格を取るためやったら、やらないとしょうがない。受験もそうや。興味がなくても、苦手であっても、点数取るためにせなあかん時はある。しかし、そういう勉強でも、自分の興味の中とか、自分が『やりたい』と思うフィールドに引き込むことができたら、それは『やりたい勉強』の色に近づくよな。それらが、光のスペクトルみたいに、青から赤まで、いろいろな濃淡がつくというイメージかな」

黒縁は両手を下におろし、今の説明で伝わったかどうかを確かめるように、颯一郎の表情を伺ってみる。

「じゃあ、『本当の勉強』だけやってても、ダメなんですね」

「『春と修羅』のときのお前は、『知りたい』という気持ちが100%やったやろ。でも、すべての勉強について、100%にはならんやろという話や。50%のときもあれば、0%のときもある。でも、知りたい度が0%でも、せなあかん時って、あるやん?」

「ああ、そういうことか」

「そうや。でも、その0%を、5%とか10%に引き上げることができたら、ちょっとましやろ」

「たしかに」

「だから、『勉強する』という行ないには、濃淡があるとわしは思ってて。やりたくないけど『せなあかん勉強』でも、そのままやってしまえる人もいるし。『せなあかん勉強』の『やりたい%』が上がってこないと、なかなかできん人もいる。結局、十人十色ということやねん。まあ、お前は0%やと分かりやすく鉛筆が止まるタイプやけどな」

「ぐっ・・・・・・でも、合格したいし……」

「そうやな。でも、この夏休みはお前にしてはよくやってると思うぞ。じゃあ、今日は綾子ちゃんもおらへんし、特別授業しようと思うが、聞くか?」

そう言えば、ここ2週間ほど、黒縁先生の「特別授業」は聞いていなかった。

颯一郎自身の特訓もあったし、何より綾子が一緒にいることが多かったので、そういう機会がなかった。たしかに、今日はチャンスかもしれない。

というより、黒縁先生の方からそれを言ってくれるのは、たぶん初めてのことだ。

「お願いします。師匠」

「よしじゃあ、前回が『春と修羅』やったから、それにちなんで、『屈折率』でもいっとこか」

屈折率

七つ森のこっちのひとつが

水の中よりもっと明るく

そしてたいへん巨きいのに

わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ

このでこぼこの雪をふみ

向ふの縮れた亜鉛の雲へ

陰気な郵便脚夫のやうに

  (またアラツデイン 洋燈とり)

急がなければならないのか

 

 

 

―――相変わらず難解な詩やけど、『序』でやったように、まず構造を理解する。最初は、主語と述語や。

 

① (主)こっちのひとつが (述)明るく 巨きい

② (主)わたくしは (述)ふみ ふみ 急がなければならない

 

この2つの主語と述語の組み合わせが、「のに」という表現で接続されている。

つなげてみよう。

こっちのひとつが 明るく 巨きいのに、

わたくしは、ふみ ふみ 急がなければならないのか

 

これがこの詩の基本構造となる。

この基本構造を元にして、解釈をはじめるのがわしのやり方や。

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さて、ここから、使われている語句を検討して解釈するわけやけれども、作品を解釈する際に、わしが個人的に気を付けているのは、「普遍性にとらわれない」という姿勢なんやね。

なぜかというと、この「屈折率」でもそうなんやけど、賢治が何を考えてこの詩を書いたかは、本当のところは実は誰にも分からないんや。

だとしたら、賢治だろうが漱石だろうが、尾田栄一郎だろうが、その作品の「普遍的解釈」なんかを探し求めるよりも、「自分にとってどうか」を感じ、「自分にとってはこういう作品である」と考え、できれば言語化することの方がよほど意味があると思う。

そのように、自分自身に引き付けて作品を味わい、自分にとっての解釈を言葉にしたり、文章にした時点で、それがどんなに稚拙であろうとも、その時わしらは「文芸批評」をしていることになるんや。

だから、お前はわしの解釈を勉強した後、それを絶対視するんではなく、では自分にとってはどうなのか、を考えてほしい。

本居宣長も玉勝間の「師の説になづまざること」の段で

「先生の説と違うからといって、遠慮したらあかんのやで」と言うておるからな。

 

では、作品にもどる。

題名の「屈折率」というのは科学用語で、物質中での光の進みやすさを表す数値や。

中学生にはちと難しいけど、たとえば、真空の屈折率は1で、水の中は1.3とかになる。

この数値が大きくなるほど、光の進み方は遅くなる。

いずれにしても、この詩の題名を「光の進みやすさ」と置き換えてみると、何か分かることがあると思わんか?

たとえば、冒頭の「七つ森のこっちのひとつ」の「七」って、光がプリズムを通った時、七色の虹みたいに見えるのを想起させる。

前半には「水の中」という言葉がある。さっきも言った通り、水の屈折率は1.3や。

詩の後半では「亜鉛の雲」という言葉が使われている。正確な屈折率はド忘れしたけど、亜鉛というのは屈折率がとても大きい物質なんや。つまり、「光が進みにくい」。これも、詩の前半と後半での対比を作っている。

『序』で見た通り、賢治は「わたくしという現象」であり、それの本質は光だった。

正体が光である賢治にとっての、「進みやすさ」の違いが表現されているともとれる。

今、賢治の目には「明るく」「巨きい」「七つ森のこっちの1つ」が見えている。

季節は冬と考えていいやろ。「わたくしは」「でこぼこ凍つたみち」「でこぼこの雪」の上を進んで、「急がなければならないのか」とあり、暗い表情をして、険しい道を敢えて行かなくてはならない様子が分かる。

しかも、「陰気な郵便脚夫のように」とあるから、何か大切なものを届ける途中なのかもしれない。

険しく冷たい山道を進みながら、その目下には、七つ森や湖なんかの景色が美しく広がっていたのかなと想像する。

ここで題名の「屈折率」をあらためて見ると、屈折したのは、光ではなく「自分の心」なのではないかという想像も働くよな。

何か外的な力が働いて、自分の意に染まぬ道を行かねばならない。

誰の人生でもありそうなことやね―――

 

「ま、こんなところかな。どうや、感想は」

黒縁がペンで書き込みをした『屈折率』の紙を見ながら、颯一郎は「うむむ」とうなっている。

「陰気だし、急がなければならないって、まるで受験勉強するオレみたいです」

颯一郎の言葉を聞いた黒縁は、「お?」という顔になった。これまで、何度かこういう作品解説をしてきた。しかし今回の手応えはどうだ。

(颯一郎が作品を自分自身に引き付けてやがる)

みんな、これができない。

というより、こういう訓練を、今の学校や塾ではやらない。

作品を、「読解力向上のための何かのトレーニング」や「受験勉強のための道具」として「消費」するばかりなのだ。

黒縁は、満足気にモニターの電源を落とし、帰り支度を始めた。

「ええと、今日の晩御飯・・・・・・」

「餃子です」

「おお、そうやった。ほな、ちゃんと宿題やっとけよ」

その日、家に帰った颯一郎は、夜遅くまで、歴史の教科書と格闘していた。

(つづく)