『10分で読める名作』で読書感想文 6年生「玉虫厨子の物語」

この『10分で読める名作』で読書感想文シリーズでは、毎回さまざまな技を紹介しています。

今回取り上げる「玉虫厨子の物語」でも小さいコツを紹介します。

今までの読書感想文の書き方記事で紹介した方法をまとめます。

これまで紹介した読書感想文のコツ

①テーマを読み取り、設定する。

②キーワードをならべる。

③キーワードに沿った200程度の作文を書く。

④テーマやキーワードに合う体験談を書く。

⑤登場人物の変化をとらえる。

⑥登場人物の言動は批判してよい。

⑦読み取ったテーマに反対意見を述べてもよい。

 

これらが、これまでの記事で紹介した「読書感想文を書きやすくする」ためのポイントです。

本記事では⑥と⑦を進化させて、新しいポイントを追加します。

 

もくじ

テーマを設定する

 

対比をとらえる準備として、テーマを設定し、この物語の中心人物である若麿の変化をとらえていきます。

 テーマ:美の追求

 「美しいもの」や「まことの美」などの言葉が、作中ではよく出てきます。

ということで、テーマは美の追求とします。

ではここで、簡単なあらすじを作りましょう。

「Aが~する」の形に当てはめて一文の短い要約を作ります。

要約例1
若い仏師の若麿は、りっぱな厨子を作ったが、どこかへ行ってしまった。

ここに、足したいキーワードを考えます。

まず、婚約者の「おとめ」は外せないでしょう。

そして、何度も出てくる「美」という言葉も足したいですね。

また、若麿が「ほんとうの美」を知るきっかけとなった「玉虫」も加えましょう。

この三つのキーワードを足した要約文が次のようになります。

要約例2
若い仏師の若麿は、おとめを妻にするために一心に厨子を作っていた。仕上げに必要な玉虫をつかまえるために野山を走り回っていた若麿は、やがて自然の中にあるほんとうの美を知る。すると、若麿は完成した厨子もおとめのこともどうでもよくなり、どこかへ行ってしまった。

126文字です。少し短めですが、要約文ができましたので、若麿の変化について迫っていきましょう。

今回は、物語のページ数もそれほど多くないので、コピーをとりました。

 

 

 

 

 

 

コピーしたのは、色鉛筆で印をつけていくためです。

若麿の気持ちや考えを中心に、大切と思った部分に印をつけていきます。

上の写真のような感じです。

特にルールなどは決めずに、自分なりに印をつければよいと思います。

印をつける前に、「テーマを設定する」「短くてもよいので要約を自分なりに作っておく」の2つの作業をしておくことをおすすめします。

そうすることで、大切な部分が自然と見えるようになります。

 印をつけると、厨子の完成が近づくにしたがって若麿の考えや行動が変化していることが分かります。

 

若麿の変化をとらえるために、若麿ビフォーアフターをやってみましょう。

 若麿ビフォーアフター

ビフォー

ただもう美しいものをつくりたい

若麿とおとめの心は、しっかりと結ばれておりました。

いわれるまでもなく、名を上げるほどの仕事をしたいと思っていた若麿でございます。

名を上げれば、美しいおとめを妻にすることができると思えば、心はおどらずにいられません。

 

アフター

名を上げよう、おとめを妻にもらおうということも、春の野のかげろうのように消えてしまったかと思われました。

美しいものを求めようとすればするほど、美しいものは、手の届かぬところまで遠のいて、星のようにかがやくばかりでございました。

 

今こそ若麿は、美しさをとらえることができました。美しさが、目の前にあるということも知りました。美しいものは、天上にあるのではなく、当てのないあこがれの中にただよっているのでもなく、我が目の前にあったのでございます。

 

今こそ若麿は、美しいもののまことをみました。神を見ました。仏を見ました。いや、神をこえた美そのものを、はっきりと見ることができました。厨子はりっぱにしあがりました。名を知られるということも、おとめを妻にすることも、りっぱにできた厨子のことさえ、ものの数ではなくなりました。

 

 

ビフォーアフターで変化していないことがあります。

それは若麿の美を追求する気持ちです。

ここは物語の最初から最後まで一貫しています。

一方、若麿にとって、どうでもよくなったことがあります。

それは「名を上げること」「おとめを妻にすること」の2つです。

 

意見提示作文を読書感想文にしてしまう

さて、ここで感想文の書き方ポイントの

⑥登場人物の言動は批判してよい。

⑦読み取ったテーマに反対意見を述べてもよい。

を高学年らしいポイントに言い換えましょう。

⑥⑦まとめ 意見を提示する。

です。

意見提示作文の書き方は、こちらにまとめました。

 

この話で違和感を感じるとすれば、それはおとめのことになるでしょう。

若麿とおとめについては、物語冒頭で

若麿とおとめの心は、しっかりと結ばれておりました。

と書かれているのに、物語が進むにつれて

おとめを妻にもらおうということも、春の野のかげろうのように消えてしまったかと思われました。

おとめを妻にすることも、りっぱにできた厨子のことさえ、ものの数ではなくなりました。

となっていきます。

これは、おとめの側から見れば裏切り行為です。

ここまでに出てきた材料をもとに、その辺を意見提示作文として書き、その意見提示作文にちょいちょいと加工して読書感想文に仕上げます。

リンク先の意見提示作文では、「対比メモ」を作ってとかいろいろ書いていますが、ここでは作りません。

①主張 ②根拠 ③まとめ

の基本形は守りますが、②根拠の中で、本文引用を多用しながら作文を進めます。

「玉虫厨子の物語」感想文の例
私は、若麿を許すことができません。
理由は一つです。
それは、若麿は婚約者のおとめを裏切っているからです。
物語のはじめの方に、
「若麿とおとめの心は、しっかりと結ばれておりました。」
と書かれています。
若麿は、婚約者のおとめを妻にするために、一心に仕事をして厨子をりっぱなものに仕上げていきます。それが、人々のうわさにもなって、
「ついに天子のお耳にも聞こえて、その仏を訪ねよ、とのごさたまで下ったそうでございます。」
と書かれています。
それほどのうわさになるのですから、おとめの耳にも入っているはずです。
若麿がりっぱに厨子を作っていると知って、おとめはどう思うでしょうか。
「やっと願いがかなって若麿と結婚できる」
と思ったことは間違いないと思います。
しかし、若麿は「美しいものを求める」ことにのめりこんでいきます。
「春も過ぎ、夏も過ぎ、秋も過ぎ、冬も過ぎ、また春がめぐってきても」
と書かれていますので、おとめは一年以上も若麿のことを待ち続けています。
それでも若麿を心配して歌を送りますが、若麿はそっけない返事をします。
そして、とうとう「若麿は気がふれた」といううわさが立ってしまい、
「こうなっては、若麿とおとめの約束も、もうおしまいでございます。」
となってしまいました。
もし、若麿がおとめのことを想う心が少しでも残っているなら、若麿は自分が気がふれていないことをおとめに伝えるはずです。しかし、若麿はそんなことはしませんでした。おとめのことを忘れてしまったかのように、野山をかけまわります。
最後には、「若麿は、厨子のでき上がったことをだれにも知らせず、ぷいと家を出たまま、どこへいったかわからなくなりました。」と書かれています。
ひどいです。
おとめは、ずっと若麿を待っていたというのに。しかも婚約者です。若麿とおとめが婚約していることは、まわりの人たちもみんな知っていました。おとめにとって、こんなひどい仕打ちがあるでしょうか。
だから、私は若麿を許すことができません。
(↑ここまでが意見提示作文)
たしかに、若麿は熱心に仕事をして、歴史に残るようなりっぱな厨子を完成させました。そんな厨子を完成させた努力は、並大抵のことではなかったはずです。しかし、だからといっておとめとの婚約を勝手になかったことにしていいでしょうか。
厨子を作ったことは立派ですが、おとめとの約束を破ったことはよくないと思います。
若麿は物語の最初から最後まで「美しいもの」を追求しつづけます。そして、最後には「ほんとうの美」を発見して、どこかへ行ってしまいます。
しかし、美を追求したら、婚約者のことはどうでもいいのでしょうか。私は、美を追求するからといって、婚約者との約束を破る言い訳ににはならないと思います。
おとめが主人公ではないのは分かっていますが、あまりにもかわいそうなので、そのことを書きました。

 

 

 

 

 

 

まとめ

今回はかなり変わった感想文の書き方になりました。

意見提示作文を作って、感想文に仕上げる。

中心人物の若麿ではなくサブキャラのおとめの立場で感想を書く。

結果として若麿を痛烈に批判する内容となってしまいました。

私が例文として書く読書感想文は、批判的な書き方が多いのですが、それは決してその物語が嫌いだからではありません。

「批判するとしたら、こういうやり方があります」

ということを例として示しているだけです。

日本の国語教育では、登場人物や作者を批判することは教えませんが、教科書に載っている作品や「名作」と言われる作品を盲目的に受け入れることは不健全です。

「疑う」という精神は、学問をする上で不可欠なものです。

そのような考えの上で、登場人物の行動批判をしておりますので、くれぐれも誤解のないようにお願いいたします。

 

この記事をお読みになる場合は、お手元に『10分で読める名作・6年生』をご用意することをおすすめいたします。

10分で読める名作 6年生 (よみとく10分)


 

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