前回のこの記事では「200字を基本単位にして」原稿用紙2枚の作文を作る方法を紹介しました。
毎度の登場で恐縮なのですが、これを読んだ妻が
じゃあ、読書感想文はどうやって書くの?
私は小学生のときに『十五少年漂流記』で感想文を書いたんだけど、結局あらすじをずっと追いかけるような感想文になってしまったの。
でも、それは私が読んでその時感じた感動を少しも伝えられなかったから、今でも悔いが残る。
どうすればいい?
と私に聞いてきました。
もくじ
モンテクリスト伯でちょちょいと説明
私はほんの立ち話のつもりで、
まず、作品のテーマとモチーフをつかむことが大切やで、
例えば、モンテクリスト伯だったら、テーマは「復讐」、モチーフは「お金持ちの紳士」やな。
牢獄から脱走したモンテクリスト伯が、お金持ちとして復讐相手の前に現れる。
んでもって次々と復讐を果たしていくわけやけれども、
感想文を書く場合は、その1こ1こをなぞっていくわけじゃなく、
「復讐とは」
ということで、テーマを掘り下げていくわけやね。
そうやって復讐というものを掘り下げているうちに、物語のある場面と合致することが出てきたら、
「この物語の中では、こんなエピソードがあって~」
みたいにくっつけるんやで。
そうやって文章を綴っていたら、仕上げに自分の体験や感慨をくっつける。
「たしかに、復讐はよいことではない。しかし、私がモンテクリスト伯と同じ立場に立った時、果たして『復讐はよくない』というきれいごとを認めることができるだろうか。」
みたいな感じて結んでいくといいよ……云々
とやったところ
ブログにして!!
と言われてしまいました。
しかし、『巌窟王(モンテクリスト伯)』なんて読んだのは確か小学生の頃で細かく覚えていないし、長いのでお断りしました。
じゃあ短い話でもいいから読書感想文の書き方を記事にしてよ
とリクエストをいただいたので、簡単にやります。
小学校低学年は、本当は読書感想文を書くこと自体をおすすめしません。
今回は、小学校高学年以上向けの内容となります。
小学校低学年でどうしても書かないといけない場合
あらすじ→思ったこと→あらすじ→思ったこと
で原稿用紙を埋めましょう。
では本編いきます。
『一ふさのぶどう』有島武郎で感想文
中心人物は「ぼく」です。
「ぼく」は担任の先生にあこがれています。
成長した「ぼく」は、最後に
「大理石のような白い美しい手はどこにも見つかりません。」
と語り、あこがれの対象を見失っていることが暗示されています。
よって、この作品のテーマを「あこがれの喪失」と解釈して読書感想文を作ることにしましょう。
「あこがれ」「喪失」を中心にすえる
そうと決まったら、「あこがれ」と「喪失」について掘り下げましょう。別々に掘り下げてあとからくっつけても構わないですし、「あこがれを喪失すること」で掘り下げても構いません。
自分の体験談を混ぜることができる場合は、混ぜましょう。
読書感想文は「体験作文である」と言う人もいるくらいです。
体験談で埋め尽くしても構いません。
そうして作っていく部品ですが、全体の目標文字数を設定します。
せっかく前回の記事で「原稿用紙2枚」を紹介させていただいたのでその応用編で、1200字ぐらいをやってみましょう。
書き出しもちょっと工夫します。
まず、段落構成からやります。
200字のユニット5つ分です。
1.あこがれについて「一般論」
2.あこがれについて「作品中のこと」
3.この作品にしたわけ
4.失うこととは
5.最後に先生について
あくまで予定ですので、書いているうちに予定変更はよくあることと思いながら気楽に計画を立てましょう。
この計画に従って書いていった部品がこちらになります。
1.あこがれについて「一般論」
あこがれとは誰もが抱く感情です。
少年がスポーツ選手にあこがれる、医者にあこがれるなど、その対象は、人物であったり職業であったりさまざまです。この物語で「ぼく」があこがれたのは、「大好きな担任の先生」でした。これは、異性へのあこがれになります。
異性へのあこがれといえば、恋愛感情をすぐに思い浮かべますが、「ぼく」のあこがれの感情は少し違うと思います。たぶんこの物語の「ぼく」は、小さくて、私の想像では小学校1年生くらいかなと思います。
ここで一般論を持ってくるのは常套手段です。
一般論での意味vs作品中での意味
一般論での意味vs自分が考える意味
こような対比を示しながら話を進めるとうまくいきます。
2.あこがれについて「作品中のこと」
小学校1年生くらいの低学年のときの異性へのあこがれは、恋愛感情とは少し違うと思います。「〇〇ちゃん好き」「〇〇くん好き」と言っても、やつらには恥じらいがありません。
今もし私に好きな人がいたら、絶対に恥ずかしくて口に出せません。だから、「ぼく」の抱いた先生へのあこがれも、恋愛というより、近所のきれいなお姉さんがキラキラ輝いて見えるような、そんなタイプのあこがれだと思いました。
作品中での「あこがれの意味」について意見を述べています。一般論との違いを述べましょう。
3.この作品にしたわけ
私の家に、なぜか『10分で読める名作 5年生』がありました。
その中には、いろいろな作品が入っていました。芥川龍之介の『トロッコ』も読みましたが、ちょっと意味が分からなかったです。私の中でいちばん登場人物の気持ちが分かるような気がしたのが、この『一ふさのぶどう』です。
よく書き出しになりがちな「この本にしたわけ」をここで持ってきました。別に冒頭部でも構わないのですが、こういう工夫もあります。
4.失うこととは
そうです。私には分かる気がしたのです。恋愛ではないけど異性への「あこがれ」の感じ。
しかし、それを「ぼく」は失ってしまいます。
「それにしても、ぼくの大好きなあのいい先生はどこへ行かれたのでしょう」
と書いてあります。
大好きな人がどこへ行ったか分からなくなってしまいました。
大きくなった「ぼく」は「見つけることができません」と言っています。
私は、この表現で「ぼく」はあこがれの対象をずっと探し続けていると思いました。
なぜなら、「見つけることができない」という言い方は、探していなければしない言い方だからです。
探す相手は大好きな先生ではないかもしれません。大好きだったあの先生のような、きれいで優しい人がいないだろうか。そういう探し方をしているのかもしれません。
5.最後に先生について
私は、こんな風なあこがれ方をしたことがありません。しかし、「ぼく」がすごく寂しい心をかかえたまま大きくなったことを想像して、私も寂しい気持ちになりました。
そこまで強く「ぼく」が望む存在には、優しさも含まれていると思います。ただきらきらしているだけのアイドルみたいな存在ではありません。
なぜなら、「ぼく」がやってしまった過ちについて、怒ることをせずに「あすはどんなことがあっても学校に来なければいけませんよ」と言って、ぶどうを渡すような先生がこの世に存在するとは思えません。
人のものを盗んではいけません。でも、先生は怒りませんでした。ぶどうを渡しました。この先生のやり方が正しいか正しくないかは、いろいろな考えがあると思います。私が言いたいのは、「ぼく」の立場から見たとき、こんな優しい対応をされたら、心を奪われても当然だということです。
部品ごとの文字数は、200字からばらつきがあります。しかし、「気持ち的に」200字のイメージを持ちながら部品を作った結果、全体としては1229字になりました。
はじめの目標1200字とほぼ変わりません。
ここから、手直しをして調整をします。
ちょっと原稿用紙に流し込んでみました。
ちょうど4枚ぐらいになりました。
ここから終わりの段落を付け足せばりっぱな感想文になるでしょう。
まとめ
あくまで「お手本」なので、こんなにうまく書けなくてもかまいません。
それよりも、最後にポイントと言いますか、そういうのを伝授いたします。
この感想文では「あこがれの喪失」という点に力を入れて書きました。
ところが、名作文学というものは、1つのテーマで語りつくせない深みがあります。
そこで、こっそりともう1つのテーマを取り上げて、最後に少しだけ触れるというテクニックを使っています。
この話で言うと、「ぼく」がジムの絵の具を盗んでしまった事件です。
これに対して、先生は「ぼく」を怒ることをせず、ぶどうを渡しました。
ここには「小さい子が犯した罪をどうするか」というテーマが見え隠れします。
これについて、最後の部分で少し触れることで、「あこがれの喪失」一辺倒だった直線的な文章に、ちょっとした抑揚が生まれます。
これが、よい感想文に見せるためのコツです。
掘り下げるテーマ以外に、もう1つちょっとだけ触れるテーマを見つけておくようにしましょう。
ではまとめます。
①200字の体感を身に付けよう。
②テーマを読み取ろう(できれば2つ)
③テーマの掘り下げを中心に段落を構成しよう
④一般論との対比を作ろう
ぜひ参考にしてください。