
私の教室で、「実際に起こっている」生徒たちの姿をなるべくありのままにお伝えします。
登場する生徒の名前はすべて仮名です。
到達段級位は教室内での得点であり、検定合格を示すものではありません。
京極くん〔小5・入会14カ月/暗算初段〕
は、入会13カ月で暗算1級に合格した記録を持っています。
この京極くんのように、
入会してから「あっという間」に上級に到達する生徒は、2~3年に1人くらいの割合で出現するものですが、
最近その出現率が高くなりました。
紅音さん〔小4・入会5カ月/暗算3級合格未遂〕
は、入会後たったの4カ月で暗算4級に合格してしまいました。
現在5カ月目に入り、あと少しで暗算3級の合格点を取るところまで上達しています。
その勢いは、もしかしたら京極くんを上回るペースかもしれません。
この2人の存在だけでも、びっくりするようなことですが、
さらに私を驚愕させる生徒が現れました。
玲子さんです。
〔小6・入会3ヶ月/暗算3級合格未遂〕
玲子さんは、6年生に上がる直前に教室にやってきました。
「5年生だと、(始めるのが)遅いですか?」
と保護者の方は心配そうにしていましたが、
「問題ありません」
と私は断言したはずです(違ってたらすいません)。
さあ、この玲子さんが、あれよあれよという間に、気がついたら暗算4級をスイープ(かけ暗算100点、わり暗算100点、見取暗算100点)しているではありませんか。
2カ月前、つまり入会1ヶ月ちょっとで暗算6級をスイープしたとき、
「え、ていうか、始めたばっかりだよね。怪物だな」
と私に言われ、笑っていた玲子さんですが、
その数週間後には、暗算4級の合格点を取ってしまいました。
(暗算5級? なにそれ?)
という感じで、暗算5級を一瞬で葬り去る姿は痛快でした。
「ううん、これはもう『あたおか』だな」
と私が感想を述べると、
「先生『あたおか』ってなんですか?」
と聞いて来たので、
「『あたま おかしい』の『あたおか』。もちろん、ほめ言葉的な意味で」
と答えました。
前回検定で、魚見くん(小1)が暗算1級に合格したのですが(小1で暗算1級に合格は、歴代アールズでも3~4人しかいない)。
その検定試験の日に、検定会場の審査室で採点をしていると、他の教室の先生に、
「1年生で暗算1級ってすごいね。一体どんな風に指導しているの?」
と質問されました。
そのとき、私の脳内にほとばしった言葉は
「うおおおおおお!ってなって。
だああああああ!って練習して。
っしゃああああああ!って練習しました」
みたいな感じだったのですが、まさかこれをそのまま言ってしまったら、
さすがに相手の先生の気分を害すかもしれないと思い、
「あ、ああ、ご家庭がしっかりしていて、家でも練習してくれるんです・・・・・・」
としか答えられませんでした。
実際、本人が家でこつこつ練習しているのも事実なので、
やはり上級に素早く到達するには、
①たくさん通う ②家で練習する
のどちらかは必要です。
玲子さんは、どうやらこの①と②の両方をやるタイプのようで、
やはり才能云々ではなく、練習量によってここまで来ていることが分かります。
そうは言っても、異次元のスピードでの上達には違いありません。
では、玲子さんについて、
「どんな指導をされたのですか?」
と聞かれたら、
「特になし」
と私は答えたいです。
私は、「教室」という場を提供し、「分かりません」と言われたらやり方を教えただけです。
別の角度から言えば、
「ぐっとこらえた」
という表現もあるでしょう。
私の教室には「国語」もあるので、もちろん玲子さんにも国語の課題を与えています。
教室では、「四字熟語の素読」をやっているのですが、玲子さんはあっという間に303個の四字熟語の読みを覚えてしまいました。
それだけでなく、『実語教』や『発願利生』の素読では、もうすぐ全編を暗誦してしまいそうです。
そこには、私からもらった課題に対し、全力で取り組む姿勢が見られます。
玲子さんの上達ぶりを見れば、
どんな指導者も「もっと伸ばせるのではないか」という気持ちが起こるでしょう。
しかし、教室に来た玲子さんに対して、私は特に「あれしろ」「これしろ」とは毎回言いません。
彼女がやりたい勉強だけやって、私は一切口出しせずに、そのまま帰る日もたくさんありました。
「あまり口出ししない。なるべくぐっとこらえる」
これを心がけたことが良かったのだと思います。
さて、一昨日のことです。
ついに玲子さんが「あと10点」で暗算3級合格という結果を出しました。
「これはもう、そろばん星人や」
と私が笑っていると、
「先生、私のあだ名、何回変わるんですか? 先生のせいで、わたし家で『あたおか』『あたおか』って言われるんですけど。今度は『そろばん星人』ですか」
と嬉しそうに?言われました。
なので私が「諸行は無常なり、是生滅の法なり・・・・・・」とお経を唱えていると
そこへやってきたのが、紅音さん(小4)と京極くん(小5)です。
2人を見た私は、
「見てみい、これ」
と玲子さんの暗算3級のプリントを見せました。
かけ算があと2問正解すれば、もう合格点です。
二人の感想は同じものでした。
「え? (玲子さんは)始めたばっかりよね?」
「今、3ヶ月目」
紅音「ええええええ? もう紅音に追いついたん?」
京極「おれの・・・・・・記録が・・・・・・」
京極くんは、特に競争心が強いタイプです。
「京極、相変わらず人と比べるのが好きやなあ」
そう私が言うと、京極くんはちょっと照れたようにうなずきます。
「じゃあ、下を見るな、上を見ろ」
と言って、【B問題】の得点欄を指さしました。
【B問題】というのは、10月に行われる競技会用に作成しているプリントです。合計点を競います。
「ほれほれ、魚見が810点で・・・・・・京極お前負けてるで?」
と私が指摘する(煽る)と
「やばい!B問題する!!」
と言って京極くんはすっ飛んで行きました。
5年生の京極くんは、2年生の魚見くんに、負けるわけにはいかないのです。
そんな魚見くんは、
「せんせぇ~ 今日は、なにするん?」
のように、普段は軽~い感じで私のところへやってきます。
私と話をするときは、ふにゃふにゃした感じですが、
いざ座ってプリントをやり始めると、ピタッと体幹が決まっています。
力の入れどころというのを本能的に分かっているタイプなのかもしれません。
そんな魚見くんに、
「知らん、自分で考えろ」
と突き放したとき、考えられる反応は主に2通りあります。
①引き下がる。
②反発する。
①と②の各反応にも、それぞれ枝分かれがあるのですが、魚見くんの場合だと、
「えええええ? いやだ!」
と反発してきます。
ここでは、「自分で考えなさい」と指示したのに「先生が決めてくれ」という意味になります。
こういう、教師の指示に対して、すぐに本音を返してくるタイプの生徒は、伸びます。
つまり、大雑把な分け方をするなら
①引き下がる 先生の顔色>自分の気持ち
②反発する 自分の気持ち>先生の顔色
すべてに当てはまるわけではありませんが、こういう心理的な傾向が考えられるからです。
私は、ときどき生徒に対して「運」の話をします。
運がいい人=やったらそれだけ伸びる人
運が悪い人=やってもやっても伸びない人
すなわち、「努力が報われる人」になるかならないかを、「運がいい」「運が悪い」という言葉に言いかえています。
そして、「運がよくなる」ためには、「本音を言えること」が大切であると生徒にはよく話をします。
さて、京極くんが【B問題】の採点を終えて私のところへ見せにきました。
「合計は?」
「820点」
「よし、魚見に10点勝ったぞ!」
「っしゃああああああ」
ガッツポーズの京極くんです。
そこへ二周目くん(小4)がやってきました。
「先生、何をしたらいいでしょう」
二周目くんは、その立ち居振る舞いがまるで「人生二周目みたい」なので、
ここでは二周目くんと呼ばせてもらいます。
「今は【B問題】で盛り上がってたんやけど、二周目の【B問題】の最高記録って何点だっけ?ええと・・・・・・780点かあ。しばらくやってないし、一発キメといてよ」
二周目くんは「分かりました」と言って【B問題】を手に自分の席に戻ります。
ややあって、二周目くんが【B問題】の合計を出して私に報告に来ます。
「870点ですね」
京極くんを50点上回りました。
二周目くんの点数を見た京極くんが、
「うわあ……」
と反応したので、
「まあ、もっと上がおるけどな」
と私は楽郎くん(小6)の点数を指さします。
「1420・・・・・・」
「でも、四国大会行って、帰ってきたとこやから、今やってみたら点数はさらに伸びるやろな」
別の時に、玲子さんが
「私が『そろばん星人』なら、楽郎って何者なん?」
と聞いていたので、
「ああ、あいつはまだまだ伸びるよ。まだまだや・・・・・・」
と答えました。
ライバルを見つけて、競争心に燃えて練習に励む人。
自分の最高記録と向き合い、集中する人。
「始めたばかりだから」と言い訳せずに、どんどん上を目指す人。
さまざまなやる気が、教室の中で交じりあい、特別な活気をもたらしています。
ここに名前が上がらなかった生徒にも、「それぞれの奇跡」が起こりつつある生徒はたくさんいます。
備忘録的な感じで、教室での風景を切り取ってみました。